Jazzと読書の日々

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2023年アニメは何を描いていたか

実はあまり見てません。 WiFi環境じゃなくなったのでパケットを気にするようになり極力動画の視聴を避けている。 そんな状況の中、2023年の総括をしてみます。

冬アニメ

1月から。 何をやってましたっけ。 ネット上のデータベースを見ると「吸血鬼すぐ死ぬ2」かなあ。 「とーとつにエジプト神」も見てたかな。 「もういっぽん!」は泣いた。

そうかそうか。 「お兄ちゃんはおしまい」でしたね、冬アニメは。 原作はあるみたいだけど、監督や脚本が女性で、心理描写が細やかだったと思う。 「女性だから細やか」ではなくて「女性だから、男の子が女性になった心の動きが細やか」というニュアンス。

今まででも「転校生」とか「君の名は」とか「男の子が女の子になるお話」はあったけど、ステレオタイプな「ガサツな女の子」にしかならなかった。 それは違うでしょ、と。 かといって「身体は女性だけど心は男」という、これまたステレオタイプLGBTにもしなかった。 新しいジェンダーアイデンティティを描いていて面白かった。

女性の友だちとのあいだに起こる感情も「恋愛」よりは「友情」だし、それでいてちょっと距離感もある感じで、お兄ちゃんの人柄の良さというか、なんでそれで引き込もりだったんかね、と不思議というか。

不思議ついでに、この話に「大人」が出てきません。 息子が女子中学生になってたら親が気づくだろうに、親が一切出てこない。 四季折々のイベントがあるのにこの兄妹、どう生活してるんだというくらい親抜きで生活している。 子どもたちで温泉旅行しても周りの大人たちは気にしていない。 不思議な世界です。

そしてこの「大人がいない」がアニメ全般のテーマでもあるなあと思いました。

春アニメ

4月からの分。 大きなところは「推しの子」と「水星の魔女」。 この二つかな。 「江戸前エルフ」も良かったと思う。

でこれらのアニメにも「大人」がいない。 出ては来るけど、主人公を導いてくれる立場にはいない。 大人は既得権のために立ち回っていて、古い世界に呪縛されている。 あるいはすでに殺されているから、その犯人探しを子どもがすることになる。 子どもたちは子どもたちだけで新しい世界を切り開かざるを得ない。

そのときどう方向を見つけるかというと主人公の二重性です。 転生前と転生後とか、本体とクローンとか、「私」がふたりいる。 このパターン、多かったですね。 異界転生ものが定着して、この二重性に違和感がなくなった。

というか、モデルになる「大人」がいないのだから、モデルは「前世の自分」です。 とても危なげなコンパスを頼りに現実を切り開いていく。

ただ「子どもだけで戦う」なら「ガッチャマン」もそうだし「大人は導かない」なら「セーラームーン」が始まりになるでしょう。 「大人」がいないと「前世」を持ち出さざるを得ないのは「セーラームーン」で体験済み。 転生もののさきがけと言える。

「大人」がいる間は「正義」を担保したのは「科学の力」です。 「バビル2世」でさえコンピュータとロボットに囲まれていた。 それが「科学とは所詮兵器ではないか」と暴かれるにつれ「愛の力」を持ち出すようになります。 ケア原理ですね。 「ヒーリングパワー」とか言っちゃうやつ。

悪は浄化されることで無力化される。 20世紀まではそれで「物語」になっていた。

夏アニメ

21世紀からはテロの時代です。 「愛の力」では何も解決しない。 終止符を打ったのは12年前の「まどか☆マギカ」でしょう。 「愛の力」は不毛な自己犠牲を強いて「魔女」を生み出す。 「悪の浄化」は「核の平和的利用」のメタファーで、それが福島の原発事故で「ウソ」だと明らかになった。 偶然ではあるけれど象徴的な作品になりました。

では「愛の力」ではなく何を「正義」の源とするか。 そこに「呪い」を持ち出し思考実験しているのが「呪術廻戦」じゃないかと思います。 何かネガティブなものに解決の糸口があるのではないか。 それで「物語」が作れるか試しているけど危ういですね。 「呪い」をキーワードにすると「推しの子」も「水星の魔女」も読み解けるのは確かで、それが現代において共感的に受け入れられている。 何かの核心をついているのは確かです。

ただ、どうして生死に関わる任務を高校生にやらせるかなあ。 とくに過去編は完成度が高かった。 漫画じゃ何してるのかさっぱりわかりませんでしたが、動きがつくとストーリーも追いかけやすい。 呪術の理屈がわからないのは変わりませんが、夏油の苦悩が伝わってきました。

ナルトだったら「先生」がいて悩みを聞いてくれていたと思います。 子どもたちはまだ「大人」に期待している。 呪術高専にそんな「先生」はいない。 子どもは自分で答えを探すしかない。 そりゃあ「サルどもめ」ってなりますよ。

「呪い」は戦争にはなりません。 冷戦時代のような大義がない。 取り返しのつかない過去の傷をいつまでも引きずっています。 だからどんどんスケールは大きくなるけど、収拾がつかなくなる。 「進撃の巨人」もあれで終わったと言えるのかどうか。

秋アニメ

秋っていつからですか。 まあ「薬屋のひとりごと」と「フリーレン」です。 どちらも「呪い」が描かれてます。 その究極が「アンダーニンジャ」かな。

「薬屋」の「呪い」は「毒」で表されているけど1月の放送を待たないとなんとも言えないので「フリーレン」。 「フリーレン」の呪いは「魔法」です。 これは出自が「魔族の言葉」だからです。 「魔族の言葉」を人間が解析して対抗手段として取り入れている。 「呪い」の力を「呪術」としているのと同じ図式です。

フランメとフリーレン、フリーレンとフェルン、二重の師弟関係が軸になります。 「前世」の変形ではあるけど、フリーレンが長寿なため、現世での連続でもある。 だから「師匠」という「大人」を組み込むことができる。 フリーレンは偽書とわかっていても「フランメの言葉」を探して魔導書を買い漁ります。 あれは無駄な道楽じゃない。 「大人」を探している子どもの姿です。 そして「ホンモノ」がどこにもない。

すると「大人」なのはハイターやアイゼンのほうか。 ハイターがザインに言った「わかり合おうとしないことです」がキーコンセプトかもしれない。 そこには共感の否定があります。 「ただ言葉を信じようとすること」。 それは確かに「大人の言葉」です。 その言葉はどこから来たのか。 ハイターは「アゴヒゲ」を知ってた?

フリーレンの「魔族は言葉を話す魔物」とは反対の見解が含まれている。 「言葉」が「魔法」の源である世界で、ここに出口があるのだろうけど、まだ見えないですね。 世界の果てエンデに到着し「死者の言葉」を聴くとき答えが見つかるのだろうけど。

栄えある第一位

異世界おじさん」は今年じゃなかったっけ? コロナの延期で忘れちゃいました。

戦いの最中には何が起こっているかわからないけど、終わってから振り返ることはできる。 それを示しているのが「異世界おじさん」。 新しい視点ですね。

「フリーレン」はこれを受け継いでいます。 終わってからじゃないと何が大切だったかわからない。 そして振り返っておかないと、その大切なものに気づけないままになる。

でもひとりで振り返っちゃダメかな。 タカフミがいるから「タワシより安く売られた」が記憶に戻ってくる。 鼻血が出ても笑い話になる。