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日本語の「システム」は system ではない?

A world of technology|600 Backlink | Photo by Maxim Hopman on Unsplash

なるほど、日本語の「システム」はシステムではないという指摘を見て、いろいろ謎が氷解しつつあります。 そうそう、「システム」という言葉遣いが急速に広がった時期がありますね。

システムコンポ

個人的には「システムコンポ」のシステム。

それまではレコードの時代で、真空管を使ったアンプで増幅し箱型スピーカーから音楽を流していたわけですが、もちろん庶民には買えなかった。 場末の映画館地下にあるジャズ喫茶でしか「ホンモノ」は聴けなかった。 庶民は貸しレコード屋で借りたのをテープに落としてラジカセで聴くくらいでした。

ところが1980年代にメディアがCDに移行し、FMラジオとダブルデッキがついたシステムコンポが出てきました。 もちろんスピーカーもついてるけど、たいていはヘッドホンで聴かないと隣の部屋から苦情が来るタイプ。 最初に買ったのはONKYOかなあ。 それが「システム」ですね。 身体が揺さぶられるくらい低音がすごいの。

システムの時代

システム手帳、システムキッチン、システム金融。 「システムなんとか」はバブル経済を彩るキーワードでした。 英語を調べると system は使ってませんね。 personal organizer とか built-in kitchen とかみたい。 「システムなんとか」は和製英語なわけです。 だいたい1980年代に流行している。

いまシステム療法について調べていて、その「システム」は「生態系」のニュアンスなのですが、日本で広まるうちに「いろいろ技法を折衷した」という意味に変わっていく。 不思議だなあ、と思っていたけど、日本語の「システム」が「モジュールを組み合わせた」の意味だからですね。 パーツを組み合わせてシステムを作る。 そういう工法が普及し、いろいろな分野に拡散していった。

ここには「合体」があります。 合体して巨大ロボットになる。 この発想は1970年代にゲッターロボから始まりますが、1980年に入ると、もはや合体しないと戦えないゴッドマーズになる。 並行して戦隊シリーズも、バトルフィーバーあたりから乗り物が合体して最後は巨大ロボで敵を殲滅するようになる。 なぜか合体がロマンになっていきます。 なんでしょうね、この時代。 単体では太刀打ちできないというテーマ。

でもイワシの群れようなデモ隊じゃダメなんですよ。 個々がモジュール化してユニットを組む。 そうした闘い方。 スタンド・アローン・コンプレックス。

本来の system

system は生態系や複雑系の「系」のことです。 仏教でいう「インドラの網」つまり縁起観ですが、これが日本では定着しなかった。

個々の事物は自性を持たない。 関連性の中で現象しているに過ぎない。 それが仏教のシステム論ですが、難しすぎた。 結局「縁起がいい」や「縁起を担ぐ」に移行していった。 一般人はラッキーかどうかにしか関心がないから。

同じことが英語の system にも起こった。 エコロジーファジィ理論オートポイエーシスといった「系」の理論を輸入したものの、どうもピンと来なかった。 IT革命と言いつつ、デジタル化すると手作業が増える不思議な国。 それは system を肌で理解していないからです。 いや、カオス理論を実践していると言うべきか。

それよりは、それまで「セット」で済んでいたモノが、だんだん巨大化してきてブラックボックス化してきた。 オーディオデッキもテレビも、真空管から半導体に移行することで、もはや家庭で直せなくなった。 叩いたら治る時代ではなくなった。

その恐怖心でしょうね。 仕組みのわからないものが家の中心、お茶の間にある。 それを「システム」と名付け鎮魂しようとした。 どうか荒ぶりませんように、と。

パソコン

ブラックボックスの最たるものがパソコンです。 なぜこれが動くのか誰も理解していない。 これも1980年代かな。 海外からAT互換機が輸入されるようになり、日本製の独自規格のパソコンが駆逐されていく。

AT互換機とはモジュール化です。 パーツを買ってくれば自作できる。 マザーボードにCPUを指してメモリーを積み、ハードディスクを繋ぐ。 合体してシステムができる。

しかも頻繁に「システムエラー」を吐きます。 動いているときよりもエラーを吐くほうが多い。 世はMS-DOSの時代で、OSをインストールすること自体が目的になっていました。 日本語化できたら「やった」と満足する。 NetWareを入れればシステムエンジニアと呼ばれる。 平和な時代ですね。

まとめ

「システム」は1980年代のある種の「空気」を指しています。 物事が巨大化してきて誰も全体像が見えていない。 なのに景気だけは好循環に見える。 いつかこの祭りが終わる予感に恐怖が漂っていた。

「システム」は、この不安の中で、なおも万能感にしがみつこうとする。 システム手帳が「バイブルサイズ」なのが象徴的です。 救済のための聖書になっている。 まだ自分は、自分に起こる出来事を把握できている。 そう信じるためのツール。