Jazzと読書の日々

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ワクワク人生相談をマッピングする

オラ、ワクワクすっぞ。

ワクワク人生相談

無職引きこもりのカレー沢先生が華麗に視聴者の悩みをちぎっては投げちぎっては投げしています。 快刀乱麻のごとく、とはこのことですね。 刀剣ヲタクなだけに。

思ったのですが、人生相談というジャンルはマッピングの練習にもってこいかもしれません。 読書メモを取るとき、そこに出てくるキーワードを書き出し「マップ」を作ってみる。 ダンジョン攻略の基本ですが、いかんせん、相応の専門書だと文章量が多いし、たいていは横道の「大正こそこそ話」。 「いっぱい参考資料を読んだ」というアピールに過ぎない。 冗長性が高いためマッピングの練習問題として不適切です。

その点、人生相談だと一件あたり8ページです。 まとめやすい。 質問が先にあるのでテーマもブレません。 問題となる二項対立が明示されている。 回答も「質問者に伝わるように書く」という宛名がはっきりしているので、独りよがりにならない。

これをマッピングすることでスキルアップしましょう。 というか、まだマッピングとは何か見えてないので、自分でも研究のためマップを描いてみたいと思います。

質問のマップ

最初の質問である「マウンティング上司への対策法」を取り上げてみます。

質問の構造は下記の通り。

面倒な上司
「私はデキる女」というマウンティング
→ ぎゃふんと言わせたい
当方既婚:上司は独身

「私」と「上司」という二項対立。 属性は「上司=マウンティング女史」で「私=?」です。 典型的な「他人の話」ですね。 自分については「ぎゃふんと言わせたい」という欲望と「既婚」という価値付けしか書かれていません。

「他人の話」だけだと「他人を変えたい」という目的になって、それは達成不可能です。 まず「自分の話」をし、ふたりの間の「相互作用の話」となって初めて「どうするか」を考えることができる。 変更可能なのは「自分」の認知か行動なのだから。

「自分の話」に持っていくには「ぎゃふんと言わせたいのはなぜだろう」と「結婚が人の価値に重要と思っているのはなぜだろう」という、この質問者の「思い」を引き出すことになります。 そこが情報として不可欠。 またその上司に対し普段どんな対応をしているのかの「相互作用の話」がないと「何が効果ありそうか」は決まりません。

橋本治の「人生相談」でもそうでしたが、こうした相談が「他人の話」になりやすいのは仕方ないことです。 カレー沢先生も「あとがき」に書いているように、まず「人に伝わるように自分の悩みを書いてみる」という一歩、そのこと自体が大きい。 それまではモヤモヤしていた「何か」が「ああ、これに悩んでいたか」と形を持つようになる。

回答者はそれに寄り添って、少しだけ「自分の話」や「相互作用の話」になるように話を振ってみることです。

回答のマップ

回答には回答者の価値観が色濃く出ます。 「自分が同じ状況に置かれたらどう振る舞うか」のシミュレーションなので、回答者自身のライフハック、それも「問題解決」のハックが前面に表れます。

これをマッピングしてみる。

世の中=マウンティングゴリラ山
・良いマウンティング:オリンピック
・悪いマウンティング:私だって息してるし
→ なぜ確認するのか=自分で自信が持てないから
→ 確認するのはゲシュタルト崩壊しているから
=これは疲れる
それを目標としたいかどうか
→ 「なんか大変そう」と距離を置く

カレー沢先生には「部屋から出なければ全部解決」という天下の宝刀があります。

冗談ではなく本気で思っている。 言ってみれば「セーブポイントまで戻る呪文」を持っておくことです。 それが「いざとなれば部屋から出ない」という呪文。 どんな困難に陥っても抜け道はある。 その安心感ですね。 命を取られることはないし、自ら命を絶たなくてもいい。 引きこもれば、人間関係の問題は解決します。 そして世の中の問題はたいてい人間関係のトラブルです。

そのセーブポイントを押さえてから、それ以外にもできることはないかを提案します。 これがどの回答でもうまい。 何度読んでも唸らされる。 今回の質問に対しては「マウンティングゴリラ山」という名付けを施しています。 問題に対し別の角度からの「名前」を与えメタファーが使えるようにする。

まさかと思いましたが「アレゴリー」です。 イメージしにくい対象を扱うとき、イメージしやすいものを連想に持ってくる。 マウンティングの例として「オリンピック」を出したり「ドラゴンボール」を出したりして「良いマウンティング」もあるのかもしれないという気にさせる。 マウンティング自体をエポケーする。

そのあと「マウンティングする側の気持ち」を推測しながら「何度も確認するなんて自分に自信がないんじゃないか」と見方を反転させる。 自信があるなら「私はデキる女」と人に言う必要はない。 しかも1回言って納まることがなく、何度も言ってくるとは「私はデキる」のゲシュタルトが崩れやすいのだろう。

しかしなぜ「上司の気持ち」を考えなきゃいけないんだろう。 一見「他人の話」をしているようですが、実は質問者のほうの「自分の話」です。 これがうまいと思った。 この質問者は「ぎゃふんと言わせたい」とすでに「ゴリラ」になりかけています。 「山」に登ろうとしている。 自分もマウンティングしたいと思い始めている。

カレー沢先生が「相手のこと」として推察しているのは、この質問者の「ぎゃふんと言わせたい」に隠れている自信の無さです。 「やめときなさいよ、それは疲れるから」と心配している。 自信を持つのに他人を巻き込む必要はない。 心の中で「俺、えらい」と自賛すればいい。 「部屋から出ない」をゼロベースにすれば、ほらほら、私は「部屋」から出てるじゃないか。

この回答で質問した人を救えたかどうかはわからないけど、この本を読んだ人のゴリラ化は何人か阻止できるんじゃないかな。 これは十分「芸」になってる。

マッピング

という感じに、相談を一つずつマッピングしてみました。 まだ難しいですね。 出てくる単語を書き抜いただけになりやすい。

そこでメモした言葉を抽象化してメタ・レベルで捉えてみる。

問題を名付ける
メタファーが使える形に変形する
場合分けする
問題を再度書き換える
→ 問題の意味が変わり問題でなくなる
→ 困難な場合は距離を置く

カレー沢先生のハックにはこの手順が隠れてました。

質問には「私と上司」や「私と義父母」のような二項対立があります。 たいていパワハラかセクハラです。 それと戦おうとするとパワーゲームになる。 つまり、自分自身が相手にパワハラを仕掛けることになる。 それでは相手の思うつぼ。

パワハラ・ゲームを崩すには相手の土俵に乗らないことです。 パワハラをする人は「それ以外のコミュニケーションを知らない」と思っていい。 人と話をしたいけれど、話のネタがないから「なんで結婚しないの?」「子どもは作らないの?」みたいなカードしか持ってない。 そこで戦っても、相手の手持ちカードが増えるわけではない。 むしろ相手は「いいコミュニケーションできた」と満足してしまいます。

・・・あ、マッピングの話をするつもりがコンテンツの話になってしまった。 これは閑話休題、仕切り直し。 人生相談は質問に「他人:自分」の二項対立が隠れていて「他人の話」に重点がある。 回答はその二項を逆転させ「自分の話」になるように添え木を立てる。 メタレベルではそうなっています。 カレー沢先生のもそうだし、橋本治のもそうだった。 これが「人生相談」の本には埋蔵されている。

この構造は、ほかのジャンルでも通用するかもしれません。 書き出しのところに問題提起があり、そこに隠れている二項対立を本文で検討しながら崩していく。 この崩し方には作者の個性が出る。 問題が見えやすくなることもあるし、失敗していることもある。 読むときはそれが楽しめたらいいかなと思います。

まとめ

マッピングの基本形として二項対立がありそうと思っているけど、本当かどうかわかりません。 でも葛藤を扱っていると思うんですよね、文章を書くという行為は。

葛藤を取り出して、その相互作用まで記述できると「筋が通った」と感じやすい。 そこまで届かないのもあるけど、そのときは「今ひとつ腑に落ちないなあ」と思うし、それは「自分でも考えてみよう」とテーマにすればいいかな。

当面は「マッピングをいろいろ試してみる」をテーマで考えてみます。

しかし「マッピング」と言いながら「ルート」を描いているなあ。 「ルート」から「マップ」に変換してこそ「マッピング」だよなあ。