ニュートンを追いかけてみて「元ネタはなんだろう?」と考えていくと、ビル・アトキンスのHyperCardに行き着きました。 昔のMacについてたアレですね。
PCはBASICでプログラミングするけど、MacはHyperCardでアプリを作る。 パソコンとはパーソナルなコンピュータだから、自分に必要なものは自作が当然でした。
というか、ソフトハウスがそんなに多いわけじゃないし、使いたいアプリの発売を待っても出てくるわけじゃない。 簡単なものはDIYするしかありませんでした。
HyperCard
どんな感じのものかはエミュレータで体験することができます。 ちゃんとアーカイヴされているのがすごいですね。
MacのOSが起動して懐かしい画面が開かれます。 スタックをダブルクリックすればHyperCardが起動する。 当時の雰囲気が楽しめます。
仕組み
仕組みは簡単ですね。 いくつかのカードを作っておき、そこにボタンを埋めてカードを切り替える。 簡単なアドベンチャー・ゲームが作れます。
このツール自体がオブジェクト指向プログラミングの教材になっている。 ボタンを配置しながら、そこにプロパティとアクションを設定していく。 アクションの実行にはhyperTalkという言語を使います。
たぶん、アラン・ケイのsmalltalkに由来する言語。 自然な英語がそのままプログラミングになるようにできています。 NewtonScriptもこれからの派生だろうなあ。 何をするアクションかは読めばわかる。 プログラミングの敷居を下げています。
なぜ消えたのか
確か漢字Talk7まではMacにバンドルされていたと思う。 ライト版だったけど、goにmagicすれば無料のままプロ版になる隠しコマンドがあって、誰でもHyperCardを作ることができた。 でもジョブズがアップルに戻って、辞めちゃうんですよね。
ジョブズがアップルの立て直しに行ったのが、ボンダイブルーのiMacでした。 そかそか、あの頃はパイオニアとか互換機を出してたはず。 ジョブズは互換機を廃止して、アップル製じゃないとMacOSが走らないようにしたのでした。 そのときHyperCardを捨てた。 なぜ捨てたか。
iMacをパソコンから切り離すためだろうなあ。 プログラムを自作するユーザよりは「for the rest of us」、パソコンを知らない人でも使えるパソコン。 フロッピー無しで、コネクタはUSBだけ、モデム内蔵ですぐネットに繋がる。 1998年のインターネット黎明期に、それまでのパソコンらしいものをすべて切り捨てた。
USBだけって英断だけど、今から見ると当たり前なのがすごい。 キーボードはシリアルポート、プリンターはパラレルポートと分けて使うのがパソコンだったのに、その常識を書き換えてしまった。
どこに行ったのか
じゃあ、HyperCardはどこに行ったのだろう。 マクロメディアのオーサリングツールになったと考えるより、インターネットになったと考えるのが正解です。
カードが何枚もあって、ボタンを押すとカードが切り替わる。 HyperCardの仕組みはハイパーテキストと変わりません。 Webで使われるJavascriptはNewtonScriptから派生している。 iMacはそのインターネットに繋がるから「i」を冠しています。
というのも、いまHyperCardを触ると「インターネットみたい」と感じるからです。 時代錯誤ですけどね。 ネットのなかった時代の作品にネットを見てしまう。 反対に言うと、HyperCardがあったからインターネットのイメージがしやすかった。 そうした人たちが集まって初期のプラットフォームを作った。 HyperCardのメタファーでコンピュータ同士をつなぐ。 その上に現代のネット社会があります。
HyperCardは消えていなくて、今も目の前にあるのです。